
この下駄は、岐阜の郡上の「郡上木履(ぐじょうもくり)」の諸橋君が作ったもの。
彼とは愛知県春日井で行われた茜染めワークショップをきっかけに出会った。
その後、この3年間、郡上踊りという伝統行事に合わせて、徹夜で踊っても大丈夫な下駄である「踊り下駄」の鼻緒を染めさせていただいている。
この鼻緒は、昨年染めたもの。
郡上木履(ぐじょうもくり)http://gujomokuri.com
郡上踊りで使われる下駄の企画・製造・販売。 「メイドイン郡上」にこだわり、郡上の山で育ったヒノキを活用し、 木の削り出しから鼻緒すげまで、一貫して郡上内で行う。 主に、「踊り下駄」と呼ばれる踊りにも使える丈夫な下駄を制作。 郡上の下駄文化を守り、発信する郡上発の下駄ブランド。
伝統的な仕事は、連携が大事だとしみじみ思う。
木こりがいて、鼻緒を染める人がいて、下駄を作る人がいて、履く人がいる。
そのひとりひとりが、直接つながってやりとりできている関係。
その輪の中に、伝統が残る。
実際、下駄の鼻緒のための布の染めの依頼内容は、染める身にとって、とても理にかなったもの。
長さ:約160センチ × 幅:約35センチ〜37センチ を10本染める。
幅は、ちょうど一尺。
一尺は肘から手首までの尺骨の長さ。
日本では、染や織りの作業がしやすいよう、この、いわゆる腕の長さに合わせた幅の布(小幅の布)が使われることがほとんどだった。
着物も作務衣も股引も浴衣も、そして下駄の鼻緒もこの小幅でつくられる。
そして長さも完璧。
この長さの布を10本とると、ちょうど一反になる。
一反は、当時の女性の着物を一枚作るための面積をもとにした単位である。
僕は生地を一反単位で仕入れる。
この生地は、10枚に折られて工房に届く。
これを折られたまま切るだけで、諸橋君からのオーダー通りの生地が出来上がる。
連携がとってもスムーズ。
生地を織る人、染める人、鼻緒にする人が、同じ伝統の中にいることで、お互いの仕事を楽にする。

このサイズの布は、たらいにぴったり収まる。
最近は、一日の仕事の半分を執筆、半分を染めに当てている。
手を動かすこと、同じ作業を反復し続けることが、頭と心と体のバランスを整えてくれる気もしている。
1回1時間くらいの、すすぎ、媒染、すすぎ、染め、すすぎ、の工程を5回〜8回繰り返して、一枚の布が仕上がる。
これを10本。
踊り続ける人たちのために、染め続ける日々。

自然出産を勧める吉村医院では、産前に一日300回のスクワットを勧めている。
一日5時間位染めていると、重たいたらいを運んだり、布を上げ下げするうちに、スクワットはその数を越える気がする。
「世の中に踊らされるな。自分の踊りを踊れ。」
と言っていた人が何人かいたことを思い出した。
思い出しながら、踊るように染めている。